続・ビジネス中国語えとせとら(7) 関西外国語大学教授 戸毛 敏美    
歩み寄り
  「互いに歩み寄る」を中国語に訳すると「靠?」という。つまりお互いに「靠」「近づき」「?」「相手を引き寄せる」という意味があり、相手に魅力を感じて貰いこちらに引き寄せることができなければ、何事も成功できないという意味が込められている。
 常に中国の人々に魅力ある日本・魅力ある日本人であること、そしてそれを上手く紹介し伝えることはとても大切なことであるが、日本人は特に後者が下手ではないかと思う。
 昨年は日本の対中投資額が史上最高だが、中国の若者が就職したい企業のランクでは、相変わらず日本企業は低く、日系企業でのスト・サボタージュ頻発と聞くと心が痛む。
 一方日本に来た中国人が来日後、日本人との接触・見聞を通じて、初めて日本・日本人の魅力に気づく方が多い。リップサービスかと思われる人が多いかもしれないが、最近莫邦富さんがある新聞のコラムで次のように紹介されていた。
 一般の中国人が最初日本に到着した頃は、中国の方が町も人も活気があって、「中国の方が進んでいる」中には「日本をすでに追い越している」と言う人が多い。ところがしばらくすると「日本人の礼儀の良さ」「清潔」「秩序正しい」など人々の資質が高い事を感じ取り「中国がここまでいくにはまだ数年はかかる」と口にする。更に見聞を深めるうちに、科学技術の高さに気づき「中国がここまでいくにはまだ数十年はかかる」と言うそうだ。  物見遊山での訪中ではなく、是非現地の中国の人々との腹を割った交流していただきたいと願う。勿論ここには言葉の障害があり簡単ではない。でもその気になれば方法はいくらでもあるのではないか。私の付き合い方、交流する心構えを纏めると「焦らず・慌てず・当てにせず・諦めず・侮らず・歩み寄る」、今でも機会あるごとにご紹介し続けている。

日中で「三光」の二文字から思い出すものの違い

 最近の報道で、奈良の健胃剤「三光丸」社が商標登録申請をしたところ、商標登録事務所の職員から異議申し立てが出され、それがメディアやネットを通じて反対運動にまで広がっているとのこと。中国語では「光」の文字は、日本の「光」と同じ意味以外に、「きれいさっぱり」「徹底的に」という意味がある。かつて中国を侵略した日本軍国主義者はすべての中国人を敵に回し、一般民衆の強い抵抗に遭遇した。そこで村や町を占領すると、農家の全財産を奪い尽くし、乳幼児までも殺し尽くし、全てを焼き尽くしてしまった。これを中国では「搶光、
光、焼光政策」といい、これを略して「三光政策」と言い、今日まで代々言い伝えられている。であるから「三光」の二文字を見ると、中国の人々はあの忘れたくても忘れ去られないほど悲惨な光景が甦るのである。日本人ですら60年以上たっても原爆や空襲の惨状を思い出し、語り継がれているのと同じである。いやそうではない。原爆や空襲は日本軍国主義が侵略をしたためにもたらされた災難だが、中国の人々は日本を侵略していないで莫大な被害を蒙ったのであるから同じようには考えられないと思う。

中国の哲学
 日中経済貿易センター理事長の青木先生が「中国ビジネスを始める前に、儒教精神を学んで欲しい」と提言されているが、大賛成である。

 あの民族存亡の危機にある抗日戦争の最中でも、毛沢東の机上には「三国志」「水滸伝」「論語」や孫子の書籍があり、そこから抗日の戦略戦術が練られたという話は大変有名である。最近「三国志」の物語を商売に生かしている状況を描いた「水煮三国志」という本が中国で大ヒットし、日本語にも上手に翻訳されている。一読に値する大変面白い本である。お互いに歩み寄るには、先ず日本人は中国と人々の考えを理解し、どんどん日本を紹介する努力も大切だ。その際、「三国志」「水滸伝」儒教の教えなどが中国人の心・行動にそう表れるかを学ぶもの必要であろう。特に「戦略と戦術の両面で物事を考える」は大いに参考になると思う。
 今年から大学院生を教えていて感じるのは、これらを言葉で表現したものが、「四文字熟語」であり、これらを理解しうまく運用することはとても大事だと感じている。
 私はただ面白いと思って「四文字熟語」(中国では成語という)や「歇後語」「俗語」などを勉強してきた。そして中国語の奥深さ、歴史の古さ、そしてそれを日本人が理解し、身に着ける難しさを嫌というほど体験してきた。多くは日本でもかつてはよく活用されていたが、現在の若者はほとんど知らされていない。中国では史的唯物論・弁証法で考え、日本は情緒的なのに比べ、中国語自身が非常に論理的であり、それらを熟語で表現する。例えば、物事の成否を決める要素に「天の時・地の利・人の和」(歴史情勢・地政学の観点・人との関係の三つから考える)「一分為二」(二分論・二つの側面から分析)「以和為貴・和而不同」(和を以って貴し・和して同ぜず)「居安思危・有備無患」(平和な時代に身を置いても、常にリスクマネージメントをする・備えあれば憂いなし)「前事不忘・後事之師」(前のことは忘れず、後の戒めとする)「求同存異」(共同点を求め・異なる点は残す)など「不勝枚挙」(枚挙に暇がない)。

日中関係正常化時代と現在・何が今必要か

 来年は日中国交正常化35周年、この間日本はかなり右傾化しているように感じる方が多いが、平和・協力を望む人は絶対多い。同時に中国もこの間改革・開放で、民衆の中国共産党に対する信頼というか、党の威信が低下しており、指導者の押さえが利かなくなり、逆にメディア・ネット社会に突入し、民衆特に若者の考えに変化が起きている。
 それまでは、党・政府の指導者が上記の考えに基づき絶えず国民を教育して来たし、中国人民も党・政府の指導者に従ってきた。今は党・政府の指導者がセーブし、ある方向に導こうとしても、普及したメディア・ネットのお蔭で人々は多くの情報を得られ、それぞれが判断して行動できるようになっている。
 今すぐ一般民衆が日本を見聞して貰うほど経済的な余裕は無いが、全国各地に散在している日系企業は、毎日のように直接現地雇用の従業員と接しているので、日頃の社員教育、養成訓練、生産活動や日々の交流などを通じて、そして何よりも彼らを通じて地元の民衆が私たちの真意、真の姿を知り、理解して貰うことはできないものだろうか。
 今中国では日本語熱が強まるなかで、若者が働きたい企業に日系企業が選ばれるようになれば、本当の意味での日中関係正常化が実現されるのではないか。