| 続・ビジネス中国語えとせとら(5) 関西外国語大学教授 戸毛 敏美 |
| ギクシャクした日中間の用語 |
「政冷経熱」が盛んに新聞を賑わすかたわらで、「ぎくしゃく」をよく耳にする。
さてこの「ギクシャクした日中関係」をどう訳すればよいのか、「ギクシャク」を辞書で引くと「不円滑」「順調ではない」という言葉しかない。
最近ある人が「坎ke(土ヘンに可)」と訳していたが、これは道などの「でこぼこ」を表現する言葉で「ぎくしゃく」をぴったり表現できていない。
色々考えたすえ私は「幾経波折的日中関係」と訳することにした。「曲折」ではなく「波折」は「困難や打撃に遭う」という意味があり、また波のように上下変動を意味するからだ。
私達が経験した国交回復までの困難な道程を振り返ると、こんなことで私達の日中友好がへこたれてたまるものかと思う。
孫子の兵法に「遠交近攻」というのがあるが、現在日中両国ともこの兵法を学ぶべきではない。「遠い親戚より近くの他人」であるべきだろう。
日本では「備えあれば、憂いなし」この部分のみが広く使われているが、実は中国では前に「居安思危,思則有備」とありその後ろに「有備無患」がつく。つまり今平穏な所に身を置いているが、いつも危険な事態を考え、リスクマネージメントをしなければならないと人々に教える言葉として、よく中国人は好んで用いる。
最近温家宝首相もこれを用い、そして「わが民族は歴史上極めて大きな災難に遭ったので、危険を憂い、備えをしようという発想が培われている」と述べていた。
最近中国の人々と本音で話をしていて一つとても気になる点は、「日本がまた侵略するのではないだろうか」と日本の右傾化を本気でとても心配している。
考えてみれば、明治維新で中国から何万という留学生が日本を訪れ、日本を師とし学び、それで中国を近代化させようとして、皆が猛勉強していた。
まさか日本が中国を侵略するとは思っていなかったであろう。しかし、その後の結果が示すように、この師は中国に「居直り強盗宜しく」居座り続け、次々と侵略をしていったのである。
「歴史は繰り返される」とよく言われるが、これだけは絶対繰り返してはならない。
日本では確かに多くの人々が「日本は絶対二度と戦争はしない」とおっしゃるし、私もそう信じたい。
しかし、中国人民解放軍の最近の動きもさることながら、特に日本側の動きから見ても、最近外相が公然と「台湾は日米同盟の領域内」と言い、中国国内問題である「台湾問題」に日本も軍事干渉すると言っているので、聞き捨てならないのではないか。
また私達はなによりも沖縄の軍事基地に注目すべきだ。沖縄基地の銃口は明らかにすべて中国に向けられており、「不測の事態」で日本が戦争に巻き込まれる恐れが十分ある。
このような中でも、今多くの若者が真剣に中国語を学び、中国との経済・文化交流に、また外交面でも活躍しようと頑張っている。
彼らの努力で少しでも友好的な関係になって欲しいと願い、何らかの手伝いをと考え、通訳者翻訳者養成に力を注いでいる。
また英語のみを学んでも、中国語を多少知っていないと英語の放送、話し、新聞も分からないので、学生にも是非しっかり学ぶよう繰り返し話している。
なぜかというと「コキントウ」といっても英語では通じず、「フージンタオ」「Hu-jing tao」と中国語読みで話さないと「胡錦涛」は通じないのである。
しかもよく私たちの頭を悩ませることは外国の人名、固有名詞で、中国では「カタカナ」が無いので、「外来語」など全てを漢字で表記しなければならず、それもできるだけ短くしようということで、外国人は大変である。
最近政府が指示を出し、英語をやたらに公の印刷物に使用することを禁じ、「WTO」「IT」など一部を除き、他は英語表記を禁ずると発表した。
そこでオリンピックは「奥林匹克運動会」と書き「奥運」と短縮、ブラグは音から「博客」と書くが、これでは日本人が文字だけ見たのでは何のことか分かりにくい。インターネットも最近新聞報道では「因特網」ではなく「互聯網」がよく用いられる。ブラジルは「巴西」と書き「バーシー」という発音、サミットは「峰会」と書き「フォンホイ」という発音であるから大変である。最近中国の新聞によくでる「茂物」、さてこれは何の意味だろうと通訳の卵たちを驚かせた。発音は「マオウー」発音だけでは「マウイ島」のマウイを想像してしまうが、実は発音とは程遠い「ボゴール」のこと。一体日本語の表記の方が間違っているのだろうか。オランダを中国では「荷蘭」「ホーラン」と発音するが、最近外国人の先生から「中国の翻訳のほうが原音に近く、日本語の方がおかしい」と言われた。原語では「ホーランド」で「ド」はく軽く発音するので、中国語のほうが近い発音とのことだった。どちらが近いのか分からないが「茂物宣言」はボゴール宣言のこと、「茂物目標」はボゴール宣言でコミットされた目標数値を指しているのであった。そのような例は沢山ある。
人名の漢字表記については、一応規則(法則)が定められていたが、最近ではそれも通用しない。特に人名が大変である。薩達姆、サダムフセインと言うがサダムのみで表している。施羅徳、頼斯、切尼、は発音が似ているのでシュレーダ、ライス、チェイニーと分かるが、メルケル(ドイツの新しい首相)の名は「黙爾(尓)克」は「モオーアルカ」という発音で、これもドイツの先生によると中国語の方が原音に近いそうだ。
最近中国では「中華スープ」という言葉が流行っているとのこと。
「スープ」とは「四不」という当て字であるとのこと。つまり「不合理・不公平・不誠実・不愉快」の表現とのこと。 実は今中国にはこの「四不」が充満していると皆が口々にいう。
私が「日本でも昭和三十年代に多くの出稼ぎ労働者が建築現場で活躍し、農村に仕送りして農村が豊かになるのを助けたし、農村の若者が金の卵ともてはやされ、高度成長に貢献した」と紹介すると、中国では「農村戸籍」に縛られ、極めて不平等な条件で出稼ぎ労働を強いられているので、不満が渦巻いているそうだ。
農民が農産物を販売する際は、安く買い叩かれ「豊作貧乏」になり、出稼ぎで稼いだお金を元手に、故郷へ帰ってから都会で得た知識・情報を生かして商売や事業をし始めている人も確かに少なくないが、多くの人が騙され一年の給料を一銭も貰えず、止む無く泣き寝入りさせられている人も少なくないとのこと。
土地はある日突然安い代金で没収されるとのこと。
中国には昔から「水清ければ魚住まず」とか「上の梁が曲がると、下の梁も歪む」という諺がある。
「市場経済至上主義」は急成長をもたらしたと同時に、「中華スープ」に浸っているのかもしれない。
七千万の党員を擁する中国共産党ももはや「最底辺の労働者・農民の味方ではない」らしい。かつて「三大規律・八項注意」で民衆の絶大な支持を得ていた党が懐かしいと古参党員が嘆いているという。
しかし中国の諺に「禍兮福所倚,福兮禍所伏」(災いは福のよりどころ、福は災いの隠れ家)「禍里有福,禍里有福」(災いの中に福があり、福の中に災いがある)と言われるように、つまり日本語の「禍福は糾える縄の如し」である。
是非次の世代の力で、これまで以上に良い環境を実現させて欲しいものだ。
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