超級的城市−上海(6)      「スーパーシティ上海」編集長 姫田小夏
40代、インテリ、知日派中国人女性が語る「私が見るニッポン」   (写真提供:姫田小夏)  
 
 日本なら結婚や育児で区切りをつける女性が多いが、中国では「40代でも現役」が主流を占める。
 筆者の身近にも、日系大手企業の秘書長や、日中を股にかけた女性実業家が数多くいる。
 仕事面で脂が乗り、社会的にも確固たる地位を築く彼女たちの、その発言にはある種の重みがある。
 日本人以上に日本を理解している彼女たちの目に映る「日本」を覗いてみた。

 筆者が尊敬を寄せる中国人に中原杏里さん(中国名:李虹さん)がいる。
 一度取材に訪れた折、自らお茶を出してくださったその姿に“一目惚れ”した。
 資生堂(中国)投資有限公司に勤務する彼女の肩書きは中国総代表秘書。
 (株)資生堂執行役員専務と中国総代表を兼ねる齋藤忠勝さんの秘書を勤めている。
 中国市場を制覇しようとする日系製販企業にとって、販売拠点の拡充は焦眉の急の課題だが、資生堂ではこれを斎藤さん自らの陣頭指揮で取り組んでいる。
 武漢や昆明など地方都市に赴くのは取締役自ら。
 中原さんはその地方出張について行くこともあり、そこでの宴席も伴にする。
 地方の代理商であっても分け隔てなく食事を楽しみ、白酒を酌み交わす齋藤さんの姿を見るにつけ「本当にすばらしい方だと思います。こんな上司のもとで働けるなんて私はとても幸せ者」とその気持ちを正直に伝える。
 父母ともに大学教授、自らも教鞭をとったこともあるが、その後日本への留学をきっかけに、いくつかの一流企業で働く機会を得た。
 「いずれもすばらしい企業文化を持っていました」(中原さん)というだけに吸収したものも多い。
 近い将来、これを踏み台に起業する気はないのかと尋ねると
 「私は中国の日系企業に所属して、こういう掛け橋のような役割をしていることのほうがずっと性に合っているんです」ときっぱり。
 女房役に迷いはない。
 出張の多い中原さんに同僚からは「早く上海に戻ってきて!」のメールが。
 いつもカラカラと屈託なく笑い、裏も表もないそのまっすぐな生き方は多くの社員にとっての理想だ。
 中原さんほどの優秀な女性ならさしずめ「我こそが天下を」と起業の路を選択するかと思っていたが、「それは上海人に多い傾向かしらね」と中原さん。
 なるほど、とかく脚光を浴びる上海人だが、「あたしが一番よ!」という貪欲すぎる一面は否めない。
 西安出身の中原さんとは地に足ついた会話ができ、正直ほっとするものがある。

◆“日本人以上に日本人”な40代も
 箸の上げ下ろしまでうるさい日本の嫁姑関係。
 日本人の若い女性ですら、「うんざり」なのだが、これに自ら身を投じた中国人女性がいる。
 杭州出身の西村万理さん(中国名:陳兵さん)は国立北京舞踊学校卒業後、中国国立バレエ団に所属、世界バレエコンクールに中国代表として参加するなど、華麗な経歴の持ち主でもある。
 その西村さんが日本人のご主人に嫁いだのは22歳のとき。
 と同時に宝塚出身の厳しい姑に、「日本式家事」を教え込まれた。
 「日本の煮込み料理はもちろん、雑巾がけだってできるんですよ」。
 それが彼女の誇りでもある。
 日本人女性の「三歩下がって師の影踏まず」というような“奥ゆかしさ”は、現代の中国人にとってもにわかに信じがたいものだが、西村さんの場合は逆にそれに美学を見出しているかのように伺える。
 「好きなものは演歌、時代劇、お相撲なんです」。
 上海市内で日本人向けにバレエ教室を主宰する彼女の、この意外なコメントに筆者はびっくり。
 この世の無常を歌った演歌、勧善懲悪の時代劇、そして体当たり一本勝負の相撲・・・、いずれも日本の庶民文化の代名詞、それを「好き」だと言いきれる西村さんに興味を抱かずにはいられない。
 西村さんは控えめで、遠慮深く、つつましやかで・・・、という形容がぴったりの女性。
 まるで失われた大和撫子を見るようだ。
 だが、敢えて“日本人化”しようと力を入れてきたかというとそうでもない。
 むしろバレリーナという中国人の芸術家にとって、古き良き日本人が持つメンタリティが心地よかった部分がある。
 「私がリラックスしておつきあいできるのは、むしろ50代以上の日本人に多い」と言うように、西村さんが日本の熟年層から受ける啓蒙は大きい。
 「礼節を極め、楽器や生け花をたしなみ、自らに磨きをかける日本人がとても美しく映る」と言うのだ。
 上海人のやり手経営者を見習って、もっと貪欲になれば彼女のバレエ学校ももっと大規模になるはずだが、名刺すら携帯しない彼女からは「ありのままでいい」という哲学的思考すら垣間見られる。
 国家級のバレリーナのその視点は我々凡人の知り得ない、もっと高いところに置かれているようだ。

◆知日派のジャッジに耳を傾ける
 ここに紹介した女性も含め、中国人の40代女性は、決して興味本位でものを言うようなただの「おばさん」ではない。
 特に日本を知る知日派には、日本と中国の両方のよさを兼ね備えた女性も多く、彼女たちのジャッジに耳を傾けることも多い。

 例えば、上海で子どもの演技を見ようと群がる日本人保護者の間で、小さないさかいが起こった。
 これを目撃したある中国人女性(保護者のひとり)こんな発言を残している。
 「当日、席を確保するために朝早くからレジャーシートを広げる保護者の姿がありました。
 ところが後から後から増えてくる人の多さに、自分が確保した場所が影響を受けてしまいました。
 そこでこの日本人男性は、ついうっかり『ここは、うちの場所だ』と言ってしまったのです。
 ところが周囲の中国人女性たちはそれを許しませんでした。
 この方は歴史を知らないのでしょう、こうした発言がいかに中国ではタブー視されているのかがわかっていなかったのです」。
 今となっては事の詳細を調べる手段もない。
 だが、「何が国際的に歓迎されない行為なのか」にもっと我々日本人は気を配る必要があるようだ。
 筆者はそれに気づかせてもらうため、こうした知日派の中国人女性の率直なる「ものいい」を十分参考にさせてもらっている。

 一方で、子を持つ母だからこその貴重な提言もある。
 昨今、耳をもふさぎたくなるほどの不協和音が日中間に鳴り響くが、これについてある中国人女性はこうコメントしている。
 「むしろ心配なのは私たち子どもの世代への影響です。
 貧しい時代を生きてきた我々世代は、日本製を有り難いと思ったし、それがそのまま日本への憧れにも繋がりました。
 けれど私の娘の世代にとって日本製はワンオブゼム。日本製がどうしても欲しいというわけではないのです」
 自国の製品が力をつけてきた中国では、「必ずしも日本製でなければ」という選択が薄れがちだ。
 他方、家庭内で昨今の「反日」が話題となれば、当然子どもにも影響をもたらす。
 「日本とのパートナーシップを堅持」という、あるべき方向性も、将来ぶれてしまい兼ねないというのだ。
 彼ら新世代が日本とどう向き合うか。
 この新たなテーマにはすでに警鐘が鳴らされている。

◆40代女性は消費をも牽引
 余談になるが、中国経済の成長もこれら女性が牽引しているのは疑いのないところだ。
 金銭とともに社会的地位も持ち、余裕綽々のこの世代は、少なくとも年1回の海外旅行とショッピングに惜しみなく資金を注ぐ。
 自分が自由にできるお金がある彼女たちの話題は「今度の大型連休はプーケットとシンガポール、どっちがいいかしら」だとか「今度のフェラガモのバーゲンはいつ?」、「エステはどこがいい?」などというもの。
 実際、某オーソリティブランドの顧客名簿は40代の女性が名を連ね、某エステサロンの会員名簿も「高級幹部」の肩書きでびっしりだ。
 彼女たち40代には「今晩のおかず、どうしよう」という現実的な悩みもない。
 「肉や野菜が『どこが新鮮で、どこが安い』などというのは、お手伝いさんが知っていればいいのよ」とあっけらかんと話す。
 これらは途上国ならではの“格差”がなせる分業スタイルであるため、今の日本に当てはまるモデルではない。
 日本には扶養控除という税制度があるため、そもそも妻は働かない方がおトクだし、ましてや乳幼児を抱えていては、「子どもがいるのに働くなんて」と支持は得にくい。
 さらに35歳を過ぎれば世間では就職活動は不利とされ、いやでも家庭に引き込まざるを得なくなる。
 「女性開放」のための課題はまだまだ山積みの、そんな日本から来た筆者にとって、中国人女性は極めて輝いて映るのだ。
 仕事でも成功し、経済力もあり、しかも自己の見聞を広めかつ自身のオピニオンも明確。
 民間交流の一環として、ぜひこうした知日派女性たちと忌憚ない意見交換をしてみてはいかがだろう。
                                                (本文の内容と写真は無関係です。)