中国レポート(8)
中国 WTO加盟で何が変わったか?
      兵庫県立大学経営学部教授 安室憲一    
 WTO加盟時の約束は守られたか?
アメリカとEUは(じつは日本も)中国を「市場経済国」としてまだ認めていない
依然として続く対中輸入規制、ダンピング規制
最大の障害は、中国市場の不透明性、民営化の遅れ、元の変動相場制移行の遅れ
今年、貿易黒字は1000億ドルを超える。もう先進国は我慢できない。中国にハンデを認めない。厳しく「市場競争原則」を求めていくだろう。
WTOの約束は実現されたか?
外資への輸入権と国内販売権の開放
一部の規制業種を除く、製造業における完全所有子会社の許可
保険・金融業の部分開放
通信販売など無店舗経営の許可
問題は、国有企業の民営化、金融制度の近代化の遅れ、通貨の国際化・・・

WTO加盟で得たもの失ったもの
繊維のクオーター制の撤廃:しかし、中国製品の激増により、逆に輸出自主規制を呑まされるはめに
軽工業品の貿易摩擦:EUの皮革産業に深刻な打撃
「中国脅威論」の台頭:家電、電子機器製品の大量流入、地元企業の相次ぐ倒産、政治問題化
にもかかわらず中国の輸出の60%は外資による:中国政府に当事者意識が薄い理由?
なぜ元の切り上げは2%だったのか:利益率の低い輸出ビジネス(それでも国内よりはマシ)、これ以上はムリ
切り下げられる労働者の賃金:貧富の格差が支える中国経済・輸出産業
深刻化する中米貿易摩擦
中国の台頭が日米貿易摩擦を緩和している:かつてのカナダと米国の関係に類似
避けられない「第二次プラザ合意」:元の大幅切り上げと輸出自主規制(1980年代の日米関係を彷彿?)
日本と中国の対応の違い:日本企業はこれを期に対米直接投資、現在の日米関係の基礎を作った(例 日本の自動車産業)、中国は長期にわたり輸出で稼ぐ以外にない(国内の雇用確保)、摩擦は長期深刻化
1930年頃の日米関係に類似してくる:体制の違いが意思疎通の障害になる

どこで中米のボタンの掛け違いが起こるか
アメリカの双子の赤字:貿易赤字7000億ドル、財政赤字4000億ドル(合計で約126兆円)
126兆円相当のドルの還流がないと、アメリカ経済は破綻、ドルの暴落(元の高騰)が起きる
日本はドルを買い支えるが(一蓮托生)、中国はドルの行き先が不安とみれば「ドル離れ」をする:日米同盟VS米中関係の違い
中国政府は、ドルの外貨準備減をらし、ユーロや他の通貨にシフト、米中貿易摩擦の駆け引きのとしてドルの還流を妨げる可能性がある。それが対立の発火点になる。

ドルの下落が招く米中対立
04年、日本は30兆円を出して米国債を買支えた(計90兆)、理由は「円高阻止」だが実態はイラン戦争支援(財政支援)
05年、日本はアメリカ議会の批判により米国債の購入を停止、ドルは緩やかに下降するシナリオのはずだった
日本に代わって中国が貿易黒字で稼いだドルをアメリカに投資、ドルが買い支えられた
石油高騰で産油国がドルを還流、ドルは支えられた。これがアメリカの未曾有の繁栄(資産インフレ)を招いた
イラク戦争が長引き、財政支出が膨らむと、ドルの還流に不足をきたす。その時点でアメリカは長期金利を上げざるを得なくなる。しかし、金利が上がれば、株や不動産価格は暴落、アメリカ経済はバブル崩壊する。
そのタイミングで、中国がドルからユーロなどへ外貨準備をシフトさせれば、ドルの暴落が加速化し、対立は決定的となる。
メードイン・チャイナの危機: EUの環境規制とその影響
05年8月廃家電・電子機器製品の回収および処理費の負担の義務付け(「廃電気・電子機器リサイクル法(WEEE)」):概算で洗濯機1台9.2ユーロ(80元)、電子レンジ4.9ユーロ(43元)、冷蔵庫17ユーロ(148元)、大型電子機器5ユーロ(44元)などを企業が負担する
06年7月「電気・電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限(RoHS)」の実施:鉛、カドミウム、水銀、六価クロム、多臭素華ビフェニール、ポリ臭化ジフェニルエーテルの6種類の有害物質の使用、全面禁止(輸出不能になる)
中国の電気機械製品輸出に与える影響は300億ドル以上、壊滅的打撃が予想される。政府や企業の対応は緩慢。
日本の大手企業は地球環境管・監査(ISO14001)の認証取得、系列の部品業者も「グリーン調達」により規制をクリア、ノウハウが蓄積されている。
世界的規模で進む環境規制
EUは約3万種類の化学物質について企業に安全性の評価を義務付ける(REACH:07年に実施予定)
規制を守らないとEU内での出荷停止:新規規制に伴う世界の産業界のコストは今後10数年で3200億ー7300億円の規模
現在の技術水準では中国企業は規制をクリアーできない
違反企業には膨大な罰金が科せられる:事実上の環境規制を理由にした中国製品の駆除、日米が追随する
次々と繰り出すEUの環境を理由とした輸入禁止措置:中国の弱みは、海外・国内とも「環境問題」に収斂する
WTO後の日中経済外交は「環境問題アライアンス」に収斂する
WTO後の最大課題:「メードイン・チャイナの危機」をどう克服するか
05年6月の「JETRO 中国ビジネス・アライアンスフォーラム」での私の主張:「日本は環境技術を日中友好の切り札に使うべし」、これなら中国もOKでしょう?
今すぐ必要な「日中環境問題アライアンス」
リサイクル、公害防除技術、ISO14000、代替製品の開発、グリーン調達、環境TQC・・・日本企業は知識の宝庫、中国企業への情報開示が求められる
環境問題がWTO後の最大の課題、日中のアライアンスはここに収斂していく。