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アメリカにあふれるMade in China
2005 年8 月末から1 年間、コロンビア大学東アジア研究所の客員研究員としてニューヨークのマンハッタン島に滞在した。南カリフォルニア大学(USC)大学院時代にロサンゼルスの白人家庭にホームステイして以来、27
年ぶりのアメリカだ。今回の訪米の目的は、「アメリカにおける中国」と「アメリカから見た中国」といった2
つの観点をすえて、米国企業は中国市場をどうみているのか、その対中経営戦略とはどんなものかを研究することにあった。ひいては日本企業の対中進出はどうあるべきなのか、なにか参考になる経済分析の視座、経営運営の視点、政策提言の視角が得られたら有益と考えた。
「アメリカにおける中国」というなら、何よりもニューヨークの大手スーパー、デパートにはMade
in China のオンパレードである。衣類、家電製品、日用品、文房具、家具、寝具、玩具、スポーツ用品など、どれも低価格。ただ、Made
in China の電気スタンドを買ってみたところスイッチを入れてもつかず返品、それも2
回も続けて。アイロン台の脚は開いたはいいが折りたためず、鏡台のガラスは凹凸があり、体は時にはスリム、時にはデブに見えてしまう次第。チャイナタウンにベッドを買いに行けば、福建省出身の家具屋の女主人自身が中国製マットの中身は何が入っているか分からないといって、米国製を薦める始末。安かろう悪かろうとは中国製の代名詞みたいな様相である。
なぜこんなに品質が悪いのかと考えてみた。日本に入ってくるメイド・イン・チャイナは委託加工企業の検査が厳格で管理をしっかりしている。アメリカの場合は、中国企業に任せきりで、そのまま輸入しているからだ。その典型がウォルマートではないか。他方アメリカの大学では今、中国語ブームである。さらに学術シンポや報告会も中国問題に人気が集まっている。20
数年前は日本語ブームだったとのことであるが、スシと日本酒だけがアメリカの各都市にしっかりと根を下ろしていた。
アメリカ人の中国観
それではアメリカ人は中国をどう見ているのか。100 人委員会(The Committee
of 100)というNPOが毎年アメリカ人の対中意識を調査している。アメリカ人を5
グループに分け、一般世論、ジャーナリストなどのオピニオン・リーダー、連邦議会議員、ビジネス・リーダー、そして華人系アメリカ人(Chinese
Americans) である。
2005 年の調査では、中国に対する好感度は、議員を除いてどのグループも6 割以上が好意(favorable)を持っている。天安門事件直後では3
割まで急落したこともあった。逆に中国を嫌いと感じるのは、議員では8 割もおり、一般世論とビジネス・リーダーが各35%
であるのと比べて極端に高い。しかし、どのグループもこの10 年間に米中関係は改善されたと考えている。貿易摩擦は激しくなったとしても、中国のWTO
加盟などもあり、多くのアメリカ人は両国関係が前進していると見てよい。
アメリカ人に中国の何が問題かと問うと、華人系アメリカ人を除いてどのグループも「人権」を挙げ、次に環境破壊。そのほか、中国の「軍事的強大化」と「経済パワーの台頭」については潜在的脅威とみるグループが多く、特に議員は軍の近代化、ビジネス・リーダーは知的財産権の侵害を問題としている。そうはいっても、各グループとも7
割から8 割は中国との貿易は米国にとって有益で、中国の低価格品も米国の消費者にプラスであると答えている。大量の中国製品の流入が米国のインフレを抑制していることは間違いない。
アメリカで共通している中国観は、どうも“ とらえどころのない大きな競争相手”
といったところ。旧ソ連のような打倒すべき「敵」とは見ていないので、敵視はしない。しかし、日本や西欧のような同盟国でもないので、気を許してはいない。
中国の巨大な潜在的成長に魅惑されつつも、米国にとっては両刃の剣である“stakeholder”( 利害関係者) だ。
米中経済関係の課題
米中関係をアメリカから見た場合、3 つのカテゴリーに分けられる。それらはとりもなおさず米国の不満といってもよい。第1
のカテゴリーは経済。巨額に膨れ上がった貿易赤字、知的財産権の侵害、人民元の切り上げ要求など。第2
は安全保障。そこには台湾、中国の軍備増強、北朝鮮の核拡散などが入る。米国は台湾の独立を認めず、「現状維持」を主張するが、北朝鮮問題に関しては中国に全幅の信頼を置いている。第3
のカテゴリーは伝統的な要求である人権問題。報道、言論、結社、信教の自由、さらにチベット独立も入る。
経済では何といっても米国側の貿易赤字が2000億ドルを突破したことである。2005
年の米国の対中輸出は通関ベースで前年比20.4% 増の418 億ドル、3 年連続20%
台の高い伸びを示したが、中国からの輸入はそれより巨額で前年比23.8% 増の2435
億ドル。これまた4 年連続20% 台の伸びで、赤字は2016 億ドルとなった。中国は米国にとって6
年連続、最大の赤字国。
こうした状況を受けて、2006 年2 月に米国上下院で恒久的な最恵国待遇を打ち切り、通商代表部(USTR)の貿易障壁調査機能を強化しWTO
へ提訴すべき、といった対中制裁の議員法案が立て続きに提出された。USTR も対中通商政策を“
抜本的に見直す” 報告書を議会に提出、この報告書では中国専門のタスクフォース設置、対中情報能力・交渉能力の向上、中国のルール遵守、対中輸出促進などをうたっている。
次に知的財産権も深刻だ。3 月1 日にUSTR は「2006 年の通商政策アジェンダ」を発表し、中国に関しては知的財産権侵害に対する取り締まりが不十分なことを強調した。
三番目が人民元改革の要請だ。中国政府は2005年7 月に2.1% の切り上げを実施した。しかし、依然「管理された為替政策」が米国の貿易赤字の元凶とみなされ、米国側の人民元切り上げ要請は強まるばかりだ。上院では切り上げをしない場合、中国の輸入品に一律27.5%
の報復関税をかける議員法案が提出された。2 月に出された大統領経済報告でも貿易不均衡、外貨準備高増大の原因に為替管理制度、人民元改革の不十分さがあると批判した。
アメリカから見た日中関係
対テロ、核不拡散を当面の国是とするアメリカは、国際政治にあっては中国を戦略レベルの国家とみなしているが、日本とは戦術レベルの同盟国にとどまっている。そのため今後は日本に軍事力の多面的機能拡大を要請してくると思われる。
潜在的な巨大市場の中国にはモノの販売拠点として魅力を感じているのに対して、日本には膨大な金融資産の開放、カネの動きに期待している。中国と関係のある米国企業の9
割がたは中国の近未来に楽観的で、それは政権の安定性と国民の旺盛な購買力を見込み、全人口の1〜2
億人の富裕層の形成を期待しているからだ。
靖国参拝問題に関しては、アメリカは日米同盟重視であるがゆえに静観である。同時に、戦争を史実として客観的にみる能力は高い。それは栗林中将麾下の硫黄島守備隊の玉砕に対する高い評価にも表れている。ただし、A
級戦犯の名誉回復、極東軍事裁判の否定、「大東亜戦争」の肯定まで日本の世論が突き進むと戦争で多くの若者を失った米国も黙っていない。また、靖国問題で露呈した日本のアジアにおける調整能力、リーダーシップに一部の知識層は疑問を抱き始めたことも事実である。米中がともに一番懸念するのは、日本の核武装である。
東アジアにおける米国の当面の緊急課題は、北朝鮮の核拡散阻止にあるので、日中の対立を望んでいない。他方、米国抜きの「東アジア共同体」には内心疑念を抱いている。
今後東アジアにおける日米中三角関係は変幻自在と予測する。日本は戦略的思考とプレゼンテーション能力、自尊独歩の気概と21
世紀の平和構築を見据えた「哲学」が問われてくる。
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服部健治(はっとり・けんじ)
**プロフィール**
愛知大学現代中国学部教授
1948年大阪市生まれ。
大阪外国語大学中国語学科卒業後、米国南カリフォルニア大学大学院修士課程修了(政治学)
財団法人日中経済協会に就職。
95年〜01年3月
日中投資促進機構北京事務所首席代表
01年4月〜現職
05年8月から一年間コロンビア大学東アジア研究所客員研究員
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