なみかわかほこの「私と中国の30年」(10)    
中国では労働者が強い
 女性であったこともそうだが、私の場合は中国語が話せることも有利な点でした。
 社員を叱る時も、納得の行く話し合いが持てた事で、説得力があったのではと思います。
 涙をボロボロ流して訴えにきた女の子。 努力するからもう一度反省のチャンスを・・・と泣かれると、私はついついティシュを差し出してしまう。
 このあたりが男性社長と違うのでしょうか。

 この女性社員の多い会社には、思いがけない事でびっくりします。
 それはこの会社の特徴というより中国での特徴といえるかもしれません。
 中国では一人っ子のためか、応募に親が付いてくるケースが少なくありません。
 本人のほかに両親、または片親、兄弟などが加わり、面接室は満杯。
 恋人と仲良く来た者もいましたが、さすがに採用はしませんでした。
 試用期間中に成績の悪い者を辞めさせると、親がやって来ることもありました。 なぜうちの娘が悪いのかと怒る親もいれば、もう一度チャンスをあげてくれと頼む親。
 時には両親が来て、夫が「妻の育て方が悪いから」と言うと妻も負けずに「あなたも父親として甘やかし過ぎたのよ」などと反論、私の前で夫婦喧嘩まで始まる。

 また違う例では、娘の各種の職業訓練校などの修了書や卒業証書の束を持ってきて、
 「うちの娘はそんなに頭が悪いはずがない。ここの上司はうち娘に偏見を持っている」などとゴネる親もいて、最終的には現場の上司がテストの結果や仕事の資料を見せて、納得させる事もありました。

 契約満了の一ヶ月前に契約継続、あるいは契約中止の通達を本人に出すことになっています。
 契約中止を不満としたあるワーカーが、会社に夫といとこを引き連れてきて、夫から「なんでうちの家内だけが再契約しないのか」と凄まれた。
 「総経理としか話さない」と何回も会社に来て、机を叩きながら「日本人は中国人を搾取している」とか、「若い女性だけ使っている」と大声で叫んだ人もいました。
 親からの脅迫電話を受けた事もありました。
 「そんなに不満なら会社を訴えなさい」と言っても相手はそうはしません、訴えても勝ち目がないからです。
 そんなことは百も承知なのです。つまりゴネたいのです。
 その他に正規の補助金以外の慰謝料を要求された事もありました。応じなかったのは当然ですがこんな時はコンまけしてはだめです。理由、先例を作ってはだめだからです。

 辞職、契約の満了・中止、解雇、ボーナスなどの項目は、契約書に明記してあります。
 こうなると、企業の人事規約が中国の労働法に則って行われているのなら、労使双方の根気比べです。
 いかに強要されても、会社側は再契約をしない理由を口にする必要はありません。
 うっかり言ってしまうと、揚げ足をとられて致命的な結果につながる可能性があることを肝に銘じる必要があります。

 一人っ子だからか、上海市が特に豊かだからか、働く本人のハングリー精神は余り見えてきません。
 かえって結婚して子供のある人の方が落ち着いてよく働きます。
 しかし外資系企業が若い女性の働き手を必要としているのも現実です。
 こういった人事の対処面での苦労は多くあって中国の人事担当者は大変です。
 社会主義国の労働者が強いのか、日本人の私は振り回される思いがしました。
                            (2003年6月出版「私と中国の三十年」より)