周 紅子の中国レポート(28)     
中国の都市で高まる不動産購買ブーム ―投機目的による「質」低下の懸念も
周  紅子
 「中国もごくふつうの人が住宅を買える時代になったんだなぁ」。東京在住17年になる中国内陸都市出身の張さん(仮名42 男性)は感慨深げだ。家を買うと知らせてきたふるさとの母の口ぶりが、まるで近所の市場で白菜をちょっと買うような気楽さだったと言う。

 張さんの両親が現在暮らす集合住宅の3DKは、張さんの父親が停年まで勤めていた国有団体の宿舎だ。中国の「房改(住宅改革)」政策の実施により個人の住宅購入が奨励された最中の1995年に購入した。当時、職場からの払い下げ金額は勤続年数や役職によって決められ、張さんの両親の場合は約1万元。市のほぼ中心に位置する立地条件や敷地面積の広さに照らすと破格だった。

 今年で築14年になるこの宿舎の老朽化が急に進んだのは、数年前の改修のときに建物の支柱部分に手抜き工事があったからだ。同じ棟の居住者と連れ立って交渉したものの、職場は財政難を理由に何らの対応も取らず、いまなお修復のめどは立っていない。諦めて早々に引っ越していった人に加え、老幹部棟だったことでここ数年亡くなる人も相次いだ。張さんの両親が住む棟は、入居者が半分以上入れ替わった。

 国有企業が住宅、医療、教育など従業員と家族の福祉を丸抱えしていた時代は、宿舎の住人はすべてよく知った同僚たち。家族同様に、互いの家を毎日行き来した。張さんの両親がこのほど新居購入を決意したのは、建物の不具合に加え、「どこの誰だかわからない外部の間借り人が増え、宿舎が何となく人間関係に乏しい、寂しい空間に変わってしまったから」(張さんの母親)でもあった。

 中国国家統計局によると2004年の不動産開発投資は前年比28.1%増の1兆3158億元に上り、うち住宅投資は前年比28.7%増の8837億元に達した。同年、分譲住宅の年平均販売価格は前年比15.2%増で、1998年以来最高の伸びを記録した。購入者層は、就職や結婚を機に親から独立する25〜30歳代から、張さんの両親のような中高年の住み替え派、投機目的の投資家まで様々にわたっている。

 北京市に住む李さん(68 女性)は夫とともに3年前、生まれ育った南方の小都市を初めて離れ、娘一家が住む首都に越してきた。娘が職場を通して北京市中関村に買った割安の住宅「経済適用房(エコノミー住宅)」は、1平方b当たりの価格が2500元。「北京の高級住宅地、朝陽区に住む親戚のマンションは1平方b1万元。娘の新宅はIT集積地として人気の高い中関村にしては値ごろ」。そう感じた李さんは、娘の勧めに従って程近い場所にやはりエコノミー住宅を購入した。「房改」時に3万元で買った故郷の旧宅は18万元で買い手がつき、これで得た収入をそのまま北京での新居購入資金にあてることができた。

 最愛の娘と孫息子のそば近く暮らす長年の夢がかなった李さんは、年老いた姉弟ら一族がいまも暮らす故郷には、ほとんど里帰りしない。北京に転居してきて間もなく、地元の高齢者で作るゲートボールチームに入った。唯一心配していた新天地での仲間作りもスムーズに運んだと喜ぶ。

 都市に住む20代〜30代の共働き夫婦が気後れなく新居を購入するようになったことも、近年目立つ現象のひとつだ。湖南省長沙市に住む大学教員の徐さん(28 女性)は昨年、同市内でエコノミー住宅を買った。製薬会社勤務の夫と合わせた月収は約1万元になる。中国の都市に住むサラリーマンの平均月収800元〜2500元(2003年中国国務院発展研究センター調べ)からすると、徐さん夫妻は高所得者の範疇に入る。新居の価格は二人合わせた年収の2年分強で、まだ子どものいない徐さん夫妻にとっては、背伸びしなくて買える範囲だった。近く、投資用に新たな物件を購入する予定だ。

中国国内の不動産投資熱は、海外在住中国人の間にも広がっている。上海から米国カルフォルニアに移り住んで20年になる孫さん(40代後半 男性)は、勤務していたシリコンバレーのIT企業を昨年、突然解雇された。失職1年経ったいまも再就職のあてはない。窮地を救ったのは、上海浦東の金融街、陸家嘴地区に買っておいた2件のマンションだった。当面は上海マンションの賃貸収入で暮らしていける。浦東地域では台湾、香港や海外の投資家らによるマンションまとめ買い現象が起こり、完売した新築マンションの中には、投資目的で入居者がいない空き室だらけの棟も目立つ。夜に明かりが一つも灯らない「鬼城(ゴーストタウン)」化している区域もあるという。

中国中華工商時報副編集長の呂平波さん(42 男性)は、「住宅販売価格が全国一高騰した上海は、いますでに土地バブル、住宅バブル状態にある」と見ている。上海の友人同士顔を合わせると決まって話題になるのが、投資のためにどこそこのマンションを見に行って、その物件がどんなだったか、だ。比較的金銭的余裕のある都市住民の、不動産投機に注ぐ情熱は、「2001年当時の株式売買に注ぐ情熱以上のものがある」と呂さん。「上海の不動産市場価格は、元々その土地に住んでいたふつうの人たちにはほとんど手の届かないところまで高騰し、そのことで不公平感も広がっている」と憂慮している。システムデザイナーで元マッキンゼー日本代表の横山禎徳さんは、中国の不動産バブルのもう一つの問題は「住宅の質にある」と指摘する。上海の住宅物件を視察したときに真っ先に「建物の造り方が荒っぽい」と感じた。「自分が買って住むためでなく、投機のために買って賃貸に回すとなると、質にタッチするシビアさがなくなる。こうして質の悪い住宅を残してしまうことが、バブルの後遺症になる」。

張さんの母親は春になってうれしい知らせを聞いた。昨秋契約をかわした住宅の値段が、契約時より1平方bあたり400元高くなって、1平方b3900元にまで値上がりしたのだ。

新しい住宅は張さんの両親にとってはいわば終の棲家。病院が間近で、買物も便利、敷地内にはそこそこ緑もある。二重ガラス、高級壁紙・外壁使用の説明書きも立派だった。「ほぼ間違いはないだろう」と最後は、自分を半ば納得させるようにして購入契約に踏み切った。とはいえ、本当のところの住み具合は実際に入居してみないと何とも言えない。本当に安心して暮らせる住宅なのか。隣近所はどんな人たちなのだろうか。判断材料も充分ないまま契約したことへの不安がふくらみかけていたところに聞いた値上がりの朗報だった。「値上がりしたってことは、この建物がいいものだと皆が判断した一つの証でしょう。少しホッとしたわ」。張さんの母親は声を弾ませる。

家を買うということは、「近所で白菜を買うように」といった具合には、やはりいかない